No.11 白川 透(しらかわ とおる)スポ医5期卒

        日本救急システム株式会社

        代表取締役

 

「救急救命士が活きる社会を目指して

 

国士舘大学体育学部スポーツ医科学科同窓会の皆さま、こんにちは。スポ医5期生の白川透(しらかわとおる)です。

 

僕はスポーツ医科学科を卒業後、国士舘大学大学院に進学し修士取得後は国士舘大学で助手として勤務していました。現在は、助手を辞めて日本救急システム株式会社という会社を設立し、常備消防(消防本部・消防署など)を設置していない宮崎県のへき地で日本初となる民間委託による救急車の運用事業を行っています。

 

 この事業を始めるきっかけは、進路相談中の学生からの一言でした。「私の実家のある村には救急車がありません。実家のある村で救急救命士としてなにか役に立ちたいと思っているのですが、どうしたらいいでしょうか。」このような相談を受けました。

 そんな馬鹿な話があるのか。この日本という先進国で救急車のない自治体なんてあるのか。と衝撃を受けたのが始まりでした。よくよく調べると、その学生の実家のある自治体は広域消防組合に入っており、消防署は確かにないのですが119番通報をすると隣の自治体から救急車が来るということがわかりました。さらに調べていくと、日本の中に30自治体ほど本当に常備消防を設置していない自治体があることがわかりました。そこで、すぐにその中の一つの自治体にアポイントを取り、その学生を含めて当時の助手や大学院生なども連れて視察へ行きました。

 

視察で担当者に話を聞くと、耳を疑うような現状でした。「119番通報をすると役場に電話が繋がり、現場には役場職員2名で向かっています。処置は行わず担架に傷病者を乗せて、とにかく病院まで急いで運ぶことしかしていません。役場職員の精神的ストレスもあるし、なにより住民が生活をおくる上で不安を感じている。しかし、財政的な理由で消防の常備化(単独消防本部の設置や近隣消防本部への消防業務の事務委託、広域消防本部への加入)はできない。」このような内容でした。

 その話を聞き、何とかできないだろうかと思い、いろいろな方法を考えた結果、救急出場件数は年間250件程度だが、火災件数は年間1件あるかないかということなので、火災は思い切って従来通り消防団の方々で対応してもらい、救急車だけプロ化したらそんなに予算はかからないのではないか。という考えに至りました。

救急救命士側にも、資格を取得しても消防機関に就職できずに救急救命士として働くことができない救急救命士が多くいるという問題があり、実際にそのような卒業生を何人も何人も見てきたので、この事業が成功すれば救急救命士の雇用拡大にも繋がると思い、必ず成功させようと心に決めました。

そこからは、国や県との交渉や従業員集め、システム作りなど、多忙を極めましたが、信じてついて来てくれた従業員のおかげでなんとか平成2761日に日本初の民間委託による救急救命業務を始めることができました。

 今は、私を含めて14名の救急救命士で業務を行っています。全員が国士舘大学出身の救急救命士で、この事業のきっかけとなった学生(当時)も無事に救急救命士となり一緒に働いています。平成294月には徳島県の自治体にも業務を拡大することが決まり、さらに7名の救急救命士を採用する予定となっております。

 救急救命士の手が届かない自治体を一つでも減らし、救急救命士が今以上に活きる社会を目指して今後も頑張っていきたいと思います。

 

 最後になりますが、日本中で活躍しているスポ医卒業生の一員であることを誇りに思っています。皆様のご健勝を祈念いたしまして締めさせていただきます。

 

2016.08.20